ピアノ・ソナタ 第二番 〈村の情景〉
Piano Sonata No.2 〈VILLAGESCAPE〉
日本の海辺に育ち、東欧の原野を巡り、田園の中で風変わりな教室を営む野生のピアニスト・田中綾からの(祈りの浜(2004)月の盆(2023)に続く)三度目の委嘱作品は、いうなればピアノソナタ・イン・グリーンである。彼女の現師匠であるイリーナ ・メジューエワさん委嘱の第一ソナタ〈光人彷徨〉が反時代を極めた破格の記念碑的作品となったので、二番目はできるだけ田舎風に寛いだ可愛らしいものを、と事の始めは考えたが、私たちの風土のまごうことなき一典型たる近江國のとある農村のハレとケを途切れ途切れに取材しては忘却するうち、気づけば見渡す限りの水田を渡る風に揺られた水鏡に映りこむ無時間のヤポネシア田園異界に頭からのめりこみ、折よく鼻先にちょろっと現れた極小の龍蛇神たる一匹のカナヘビ(日本固有種)に導かれて奥へ奥へと潜っていくと、見慣れた世界が全く違った光に照らし出されて、いつしか音楽はソナタ型の筺を易々と破り蛇頭龍尾に展開する奇想天外な極近の異郷訪問/冒険譚となっていた。
曲は村の一日(朝、昼、晩)に準えた、連続する七楽章から成る。
Ⅰ朝の散歩 morning stroll
Ⅱ川の辺りで at the riverside
Ⅲ鎮守の杜 in the shrine forest
Ⅳ昼の幻想 noon illusion
Ⅴ狐の嫁入り fox‘s bride procession (shiny rain)
Ⅵ逢魔が辻 on the haunted crossroad
Ⅶ夜の祝祭 night festival
[上演記録]
2025年3月31日 田中綾 滋賀県大津市 奏美ホール
2025年4月5日 田中綾 京都府宮津市 みやづ歴史の館文化ホール