天獄と地極
PARADISO & INFERNO
[TENGOKU to DZIGOKU]
四手連弾に依る人形悲喜劇
Tragicomic Marionette Theatre for Piano Four Hands
(2023-2024)
入場/序曲
Intrada / Overture
第一日: “虚栄の市”—ラグタイム、ほとんど無窮動
DAY 1 : “City of Vanity” – Ragtime quasi Perpetuum mobile
間奏 一
intermezzo 1
第二日: “水と洪水”—舟歌、ほとんどロマンス
DAY 2 : “Water & Flood” – Barcarolle quasi Romanza
間奏 二
intermezzo 2
第三日: “旱魃と火事”—ワルツ、ほとんどスケルツォ
DAY 3 : “Drought & Fire” – Valse quasi Scherzo
間奏 三
intermezzo 3
第四日: “星々の墜落”—トッカータ、ほとんど即興
DAY 4 : “Stars Falling” – Toccata quasi Improvvisazione
間奏 四
intermezzo 4
第五日: “生命の絶滅”—葬送曲、ほとんどブリコラージュ
DAY 5 : “Life Exermination” – Funebre quasi Bricolage
間奏 五
intermezzo 5
第六日: “愛の死”—バッタリア、ほとんど死の舞踏
DAY 6 : “Death of Love” – Battaglia quasi Danza macabre
間奏 六
intermezzo 6
第七日: “楽園追放”—パストラーレ、ほとんど子守歌
DAY 7 : “Paradise Lost” – Pastorale quasi Ninna nanna
退場/終曲
Extrada / Finale
この作品は山田ゆかり&マティアス・ファイト両氏の連弾デュオの委嘱により2023年12月から2024年1月にかけて作曲した。思いがけずその依頼を受けた時、何かしら胡乱さを孕む連弾というユニークな媒体を頭に浮かべるや即座に、街角にでもありそうな調子外れの箱型ピアノが脳裏でジャンジャンとやり始め、やがてそれに合わせて四手二十指に操られたイヴとアダムやルシフェルや動物や怪物や人間そっくり有象無象の人形たちが、英国のパンチ&ジュディも真っ青の強い毒を含んだユーモアとアイロニーを撒き散らしつつあちらこちらから躍り出してきて箱型劇場に飛び入り集い、悲喜交々の乱痴気芝居を好きすっぽうに演じ始めた。そうしてそんな彼らによってあれよあれよと編み出されたのが、ベートーヴェン→オッフェンバックの知られざる哲人道化の系譜に連なる、音による人形悲喜劇「天獄と地極」。曲は旧約の創世記・天地創造の七日間に似て非なる天地壊滅の七日間が本編。一日毎に幕間の楽屋裏の様子を覗く短い間奏が入り、入退場の序曲と終曲が額縁を成す、という仕組み。各楽章のタイトルから察するに、人形たちはどうやら一生懸命になって現代社会に喧伝される諸問題(例えば際限なき賭博めいた資本主義システムの暴走、地球環境破壊が招く天変地異の数々、生命科学・遺伝子工学はじめテクノロジーの進化が齎らす災厄 etc…)といった様々を逆説駆使して黙示劇風に警告し、聴く人に生命とは何か・人間とは何か・尊厳とは何かと大真面目に問いたげだが、悲しい哉、操られたモノたちの大袈裟な仕草はシリアスであればある程われわれ人間にはユーモラスに映る。そんな訳だからお客様はただもう傍観者あるいは野次馬に徹して、舞台上の二人の人間(奏者)が命懸けの全身全霊で生命の無い人形を演じ響かせる様子をクスクスゲラゲラお愉しみ頂ければ幸いである。ただ一つだけ心なき人形たちのココロをこっそり推し量るなら、私たちのかけがえない生命や肉体や精神や風土の歓び悲しみが、全て楽園追放(という名の箱庭脱出)のお蔭であったらしい事くらいは想い起こしておこうと思う。
[委嘱]
Die Kohlmeise
[初演]
2024年3月29日 石川県立音楽堂 交流ホール マティアス・ファイト & 山田ゆかり