月の盆

TSUKI NO BON

 

ピアノの為の創意曲

Invention for Piano

 

 

 

(つき)あかる(たに)

 

 

 

(そら)(したた)(ひかり)(しずく)

 

 

 

(くさ)(うろ)めく(をど)()(かげ)

 

 

 

静寂(しじま)()ける(とお)()(ごゑ)

 

 

 

 

はやせはやせよ踊り子よ囃せ

囃子なくては音頭が取れぬ

ヨーイヨーイヨイヨイヨイ ヨーイトセ

 

 

天橋立で名高い京都府北部・丹後の宮津、宮津湾の南に面した旧城下町西北の、小高い愛宕山の麓に“池ノ谷”という名の集落が佇む。竹取盛んなこの地には所謂源平合戦とは毛色を異にするもう一つの平家落人伝説が古く伝わる。謂く、坂東の猛者・平将門の蜂起(天慶の乱)が平定され、囚われとなったその残党が皆殺しとなる所を、市の聖・空也上人が顕れて「兜を脱いで鉢となし踊り念佛をして後世を弔い生き延びよ!」という教えに一同哭きながら歓呼した、池ノ谷の人々はその落人達の末裔である、と。盆踊りの遥かな起源が空也の踊念佛に遡るとの説を知れば、盆行事の盛んな城下町の果てにポツンと密やかな空也信仰と“池ノ谷音頭”という特有の踊りが古く残ったのも縁の不思議という他ない。

 

「月の盆」の最初の着想は恐らく2001年頃、異様に長い熟成を経て田中綾の委嘱により2023年に完成した。夏の夜に飽きることなく音頭を囃し踊る古老達の声や姿を心の奥で辿りつつ編んだ、調べの絲が月色の響き織り成す、ピアノの為の対位法的小品である。

 

 

[委嘱]

田中 綾

 

[上演記録]

2023年7月22日昼 滋賀県大津市 奏美ホール 田中綾(Pf)

2023年7月22日夜 滋賀県大津市 奏美ホール 田中綾(Pf)

2023年9月9日 京都府与謝郡与謝野町 野田川フォレストパーク 音楽ホール 田中綾(Pf)